L'INVENTION DE LA SOLITUDE

 ポールオースター『孤独の発明』の英語版を読み返しておりますが、柴田訳の日本語版を読んでいたのが一年前。他の作品は読んでいたのだけれどこれだけずっと読んでいなかった、そしてごく個人的なところで近年稀に見るほどに影響を受けた本となった。このタイトルすらも何通りもの意味が込められているが、一つの見方としては非常に精神分析的な本である(とは某氏にも指摘された)こと。孤独の発明こそが精神分析に要請される創造かもしれない。
 前半は物語として、父が人生において作り出した孤独という装置を彼の亡くなった部屋、そして特にその車を運転してみるような中から徐々に発掘していく作業。後半は散文として、様々な父と子や死と再生、それから引用される数々の史実や芸術家の生、彼自身の生の「物語」。文中にも登場ずる千一夜のシェラザードは物語を語り続ける。過去や創作の生や死の物語によって実際に語られているのはまさにそこにある生と死であること、人の心に触れるのは最後にはいつも物語だ。自身の生に物語が忍び込む瞬間、偶然の奏でる韻。出来事やイメージが、音が、言葉が韻を踏む。そこに人は物語の端緒を見ずにいられない。

 たまたまフランス版の表紙を見つけたので掲載。はじめてみたけど、好きな感じ。私は新潮文庫のものが好きで、アメリカのペーパバックでお決まりになっているトリック写真が表紙のものはちょい苦手なので。