Denish*1

pesce2004-03-04

 一昨日はジャズピアニストの南博さんとかなり深夜まで酒呑んでました。そして彼は非常に健全な人であるという予想を確信に変えました。彼自身は抑鬱だと言うし、数年服薬をしていて、と菊地さんとのライブでも時折言っていたしこの晩も「僕は、Dipression、なんですよ。」とか「ファザコンかもしれない」とおっしゃるのですが、彼は支配的で強力な父親と取っ組み合いのケンカをしてピアノを選び、その作品で結局父親に自分を認めさせて(それも20代のうちに)和解をすると言う、すごい王道の通過儀礼と成長物語をやってきており、そりゃ抑鬱の時もあるかもしれないけど病理的なファザコンではありえないにゃあと思った。ナイーブな感受性を持ち合わせてはいるかも知れないけれど、その傷はあくまでも健全なものだと思う。菊地さんも彼に「精神分析は向かないと思う」と言ったらしい。誰にでも紹介してるのかと思ってた(笑)んだけど、それは菊地さんが正しい。(治療としての)精神分析は、ちゃんと自分を引き受けている人間には不要なものだ。
 「落ち込んだ時にはこれを見るんですよ」と、手帳の中から岡本太郎のポートレイトと『草枕』の冒頭文のポストカードをそれぞれ引っ張り出す。見せられるのはこれで三回目(南さんは、好きな話は何度でもする。単に忘れてるだけにしても)なんだけど、好きなものについていちいち新鮮な喜びと驚きで話をする彼を見るのは好きなので、また私もそれについての新しい感想を言う。
 彼がデンマークでやっているKASPER TRANBERGというジャズバンドの写真を見ながらかの国についての解説(これも幾度目かだけど)を聞きつつ色々と案を練る。話を聞いてみると私が昨年仕事で関わっていたデザインイベントに大使館招待バンドで出演していたのだった、それも私が5階で働いていた日にその2階で。デンマークは九州くらいしかない小国だけれど、非常に文化に対して手厚い自由のある国だということ。人種差別がなく、アメリカからやってきたジャズプレイヤー(有色人種の)が何人も住み着いたこと、朝鮮戦争の孤児を引き受けたのがフィンランドデンマークで、とてもコーリアンは多い(けれどコーリアンタウンはない。デンマーク人として育っているから)こと。うん、三度以上聞くとまるで自分が行ってきたみたいな親近感が既に持てる(笑)。というか行くはずだったのだが昨年。
 彼は今年のコペンハーゲン・ジャズフェスティバルに出るのだけれど、このイベントはデンマークの首都を丸一週間以上ジャズで包み込む大きな催しだ。全ての街角の全てのカフェやスペースにアップライトピアノやドラムセットが持ち込まれテントが張られ、いつまでも明るい宵の空に音楽が吸い込まれる。先月のエスクワイアジャパンのユーロジャズ特集は創刊以来1、2を争う売れ行きだったらしい。私はジャズについての知識はまるで欠如しているけれど北欧のジャズはその澄んだ音色に、豊かな孤独の印象がある。そしてデンマークは他の北欧や近隣の諸国の中では非常に自由度の高い大らかさを感じる。これらの印象が合っているかどうかは実際に訪れる時を待つつもりだが、現在の日本に紹介する価値のあるものを多く抱えた国であるように思う。