オランダの光

pesce2004-11-28

 写真美術館で上映しておりますところの『オランダの光』を観てきました。
 夏頃に試写会を観たある編集者がとても褒めていて、話がそこから特集についての方向に広がったため、この映画自体について彼女が何を言ったかは全く覚えていなかったのだけれど、ともかく自身の中にもずっとあった近い考えと、フェルメールの眩しさというものが彼女の話で繋がって、心待ちにしていたものだったと思う。土地の光と、それによるビジュアルアーツへの影響、目の色、色彩の認識。あとは特別な空をどこにもってくるかというものだった。
 オランダは行ったことが無い。ぱっと観た時は今年の初夏に訪れた、デンマークルイジアナ美術館から見える海景を思い出した。溢れる光を強調する銀粉のような闇の粒子、遠くから射る太陽。もう少しだけ、彼の地は空気の硬度が高かった。美しいけれど静かな空にふと眠気を催した頃に突然の画面の切り変わりで叩き起こされる。プロヴァンス・ブルーの格子戸、見知った光、ヴィンセントの肖像画が映し出される、アルルだ。打って変わった金色の重量の強い光が響く。ロマネスクの街でありながら、打つものを色褪せさせるグラディヴァの現れる異界ではない。近くを流れるローヌとカマルグ湿地帯がもちこむ粗い粒子のためだろうか。今度は爆音と共にタレルがセスナを着陸させる、赤い土と強烈な照り返しを宇宙へと逃がす澄み切ったあの空はアリゾナだろう。ミラー加工のプロペラをバックに話すタレルの図は少々似合わぬ合成画のようにも思えたけれど、光を追求するプロジェクトのひとつ。私はあれにねっころがり光だけを享受すればたちまち闇に反転する(笑)わかりやすいイメージから逃れられない。けれどとにかく光、ここの光は歪まず進む。
 オランダは行ったことが無い。けれど見知ったこれらの風景から、多分このフィルムの中のオランダの空は、現実と(少なくとも他の地との比較は)近いものだと思う。
 芸術家、科学者、美術史家、気象学者、国際間トラック運転手、ギャラリスト、それぞれの目と視点と経験から数々の証言、実験、観測。そしてギャラリーの壁に穿たれた光の穴ような一枚の、オランダの空を描いたキャンバス。

・・・すいませんネムー且つ腹痛いので中断。