Monsters et Nomades

pesce2008-04-21

前エントリーと同じ日付の夕方ですが、やっぱ分けよう。取り急ぎ、AFのエナメルパンプスに履き替えてテアトロシャンゼリゼへ。結局開始30分前にホテルを出るがなんとか間に合う。メトロでAlma-Marceauの駅をあがるとザッツパリ、なセーヌ河越しにエッフェル塔が至近に眺められる角、そこにカフェがありみんなして夕日の降りるセーヌ側を向いている。既に開始10分前だったので焦っており目の前のカフェ客に「テアトロシャンゼリゼはどこですか?」と、フランス語と英語で尋ねてみるが「観光客だから。ごめんね」でーすーよーねー。ここに座ってるのほとんど全員そうでーすーよーねー。失礼しました、お互いタイムロス! と、通り名を再チェックして川沿い一本隣の道に入ると、先のほうに人だかりとそれなりの建物がすぐ見えてほっとする。席はBalcon(二階)の前から三列目、周囲はけっこう老齢で、同世代はほとんど見かけなかった。お隣などは杖で階段が大変そうな白髪のおばあさま。ロンドンにも少しはいらしたけど、更に高齢化している。というかコンテンポラリーダンスをこの年齢の人が来るほど根付いているのがすごい。まあギエムはパリオペラ座バレエ団のエトワールだったわけで、バレエファンの方々ということなのかな。
作品は、音楽、服装(スカートパンツみたいな)を中心にインド舞踊のカタックが入ってくる。
バングラ系英国人・アクラムの若い(すみません同年齢でした)力強い肉体と風貌が
カタックのリズムと歌声で白と銀灰色のステージを斬るように舞う
(ステージの後方スクリーンは既に切り裂かれたような姿を見せているが)。
そして長い赤毛の"Gravity Zero"なギエムが舞い込む幻想のように現れ、
彼に纏い、強い存在感を顕にしていく。
長い髪の先一本、宙になびくスカートパンツのひとひらの動きまで
コントロールされているかのような確実な動き。2005年の"最後の”『ボレロ*1日本公演の時もそうだったけれど、
強すぎる印象は距離を越えて見えるはずのないその髪一本、瞬きひとつまで
クローズアップされ焼き付けられていく。
途中、ダンスが途切れ二人の会話とギエムの独白が英語でさしはさまれる。
それはなんだかコミカルな、ジョークもかなり交えたやりとりで緊張感は一時休止になるのだけれど、
長台詞の中で「ミラノにある本屋さんで”チャーリーブラウンを見たの”……」という話から、
髪を後ろに縛って三つ編みにしたギエムが”サリー”そしてカーンが”チャーリー”
のような役どころで寸劇が入り、サリーがチャーリーに詰め寄り耳を引っ張り、
子どもの喧嘩から次第にパーカッションがインサートされコミカルな動きを経て
一番のピーク部のダンスへと入る流れがある。
日本でやるときは是非、チャーリーブラウン部分を
サザエさんに変えてやってもらえれば、などとどうでもいい妄想をしつつ見る。
ちなみに劇場の上部に電光掲示板でフランス語訳も流れていた(映画祭の外国語部門っぽく)
けれど日本公演ではどうするのだろう、日本は若者ばっかりくるから英語で十分か?
とはいえところどころはフランス語だった。で、カーンとの
ロストinトランスレーションな部分も笑いの要素になっていたり。
その後は、ダンスの終わりに自分の息が止まっていたことに気づくような、
"la petite mort"な(表現自重)山の連なりの先の幕切れで。
西欧のバレエ出身の踊りとヒンドゥーの神話を伝える民族の踊りの融合とか、
そういうものより聖なる獣の、フューチャリスティックな空間を舞う異形の神、とか連想しながら、
多分あの瞬間に横から刺されても気づかないんじゃないかという引き込まれ方で見ていました。
キャラクターから人間、そこからまた違うものへとメタモルフォーゼする。

終了後、まだ明るいセーヌ河へ出るとカフェは更に込み合っている。
エッフェル塔はそのすぐ近くのレストランに某媒体の接待にくっついていった時と
数年前の冬にモンサンミッシェル帰りに通った気がするくらいで、あまり近くで眺めたことがない。
時間がまだあったので結局オベルカンフに立ち寄って同伴出勤(笑)
アパートの隣にビオマルシェができて野菜とチーズだけはとても良いなど、
普段来ない地区なので微妙な情報をいただきつつ本日二度目のFondation Cartierへ。
まだ微妙に明るい八時半から開始の午後九時にはようやく夜になる。
そうして受け取った本日のチラシ、目に飛び込んでくる名前がある。
Tom Verlaineって、トム・バーラインじゃないですか! トン・ヴェルレーヌって、そうかそうだよフランス語読みじゃないか! 
知ってる知ってるー! マーキームーンー、キュルキュルキュル〜 と、伝えようにもエルベは仕事に行ってしまい
一人、口ずさむイントロギター音。そうか、Patti Smithのリレイテッド企画ですかありうるわー、
と一人納得。納得しても独り。ということで、展示作品がよけられた地下のPatti Smith展の場所で、
でも彼女の作品に囲まれてトム・ヴァーラインのギターデュオを見る夕べ。
チューニングでスライドバーを指にはめてファズ踏んでキュワワ〜と
高いところから失礼します! という(まあ我々半数はクッション敷いて地べただったんですが)音だけで
もう今の薄毛は見えないフィルターが。高校生のときの脳フィルターがかかって。
フジロックのときスルーしたじゃんって、ええ、すみません。
や、環境がこういうのだとまたクるものが違って。あの頃(17歳当時)良く聴いたよNYパンク……
とか言うので年齢詐称問題になるんですけど。そんなわけでさすがにMarquee Moonはありませんでしたが
途中のソロでリフを一瞬とって客のウケ取ってました。
ヨーロッパからアメリカのロックに憧れた世代って言うのがけっこうあるらしく、
年齢層は幅広く、しかしやはりコアは40代後半から50代。イタリアでライヴをやったらしく
フランスではこの一夜のみだったらしい(エルベが自慢げに話していた)。
基本的にトムの指はネック付け根近くでキュルキュルやっててそれだけで一時間半おなかいっぱいに持ちました。
ホテルに戻り、今日、何を観たんだ私は。という満腹ぶりに気が付く。
ギエム&カーン、でバーレーンを一晩で。それは大変だよ。
明日、一年ぶりで田村有紀さんに会う約束。
湯船に浸かって斜めの窓に打ち付ける雨を眺めて就寝。

パリで見たくなかったポスター。

*1:ただ会場で配られていた先行販売のチラシで、五月か六月にヴェルサイユのほうである公演にてボレロ、の演目を見たような……最後のって、日本だけの話なの?